から買って、こちらの村へ戻るの途中というよりは、あちらのおばさんなり、姉さんなりというものがあって、それが、今まで秘蔵していたこの品を、仔細あって、あの娘に譲ってくれたものではないか。それは、かねての長々の約束であったか、或いは一時の話のはずみから出来たのかも知れないが、今日という日に、この品が確実にあの娘の手に落ちたので、それを持ち帰る途中、嬉しくって、幾度も幾度も取り出してはながめ、とり出してはながめ、ここへ来ては、その嬉しさが鼻唄となって、宙にかかえ込んで来たところへ、雲突くばかりの男が出て行手をさえぎった! それまでの光景が、白雲の眼に、手にとる如く映って来たので、いよいよ罪なことをしたものだと思いました。
 白雲といえども、こういうたぐいの品が、どのくらい、若い娘の心を躍《おど》らせるということを想像しないほどのぼんくらではない。
 若い娘でなくとも、こういうものに愛着を感ずる女の心は、たしかに実験を味わっている。よし、自分は嫁《かたづ》いて納まり込んでしまったにしてからが、なかなか手放せないものだ。それを甘んじて、この若い娘さんのために割愛した伯母《おば》さんなり、姉さんな
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