でなければならぬ。
陸前の松島の観瀾亭《かんらんてい》に、伊達正宗が太閤から貰って、もたらして来た永徳の大作があるという噂《うわさ》を聞いたことが、一気にそこまで白雲を突進させようとして、ここ勿来の古関のあとに立たしめた本当の道筋でありました。
十四
こうして、鹿島洋《かしまなだ》で得た豪興が、一気に田山白雲を、ここまで突進させてしまったけれどここへ来てみると右様の始末で、「勿来」の文字が、帰るに如《し》かずを教えることしきりです。
駒井殿も心配しているだろう、妻子にも逢いたくなった――ガラにもなく、この帰心のために田山白雲の心が傷みました。
松島には狩野永徳が待っている――扶桑《ふそう》第一とうたわれた、その松島の風景的地位というものも見定めておきたいし、黄金花さくという陸奥の風物は一として、わが画嚢《がのう》に従来なかった土産物《みやげもの》を以て充たしめざるはないに相違ない――が、前途、路は遥かだ。
「帰るに如かず」の心が、白雲の逸《はや》る心を乗越え乗越えして、堪え難いものとするとともにここまで来て……引返すということの意気地のなさを、自分ながら後
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