ます」
「あぶないですよ」
「いいえ、大丈夫でございます、眼はごらんの通り不自由でございますが、御方便に、勘の方が働きますものでございますから」
「いや、何しても、無事でお前さんがここへ来られたことは、奇蹟というてもいい」
「はい、わたくしと致しましても、不思議の感がいたすのでございます」
こう言って、弁信法師は炉辺に近いところへ、にじり出でて、ちょこなんとかしこまりこんでしまいました。
「だが、弁信さん、お前さんも了見違いなところがありますよ」
「ありますとも、ありますとも」
北原に言われて、弁信が、ちょこなんとかしこまりながら、身体《からだ》を軽くゆすぶって、
「あります段ではございません、もともと一切が、わたくしの了見違いから起ったことなんでございます」
「そう言われてしまっては、恐縮で二の句がつげないというものだが、いったい、お前さんという人が、その身体で、見れば眼も不自由でありながら、今時、この白骨の谷へ、たった一人で、出向いて来ようなんというのが、そもそも了見違いの骨頂なんですよ」
「その通りでございましたが、どうも、わたくしの身を、こちらへ、こちらへと、引きつけてまい
前へ
次へ
全323ページ中318ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング