ること、猟師と申しますと、失礼ながら殺生を業となさる、仏果の上から申しますと、あわれ果敢《はか》ない御稼業《ごかぎょう》と申すよりほかはござりませぬ。しかし、この場合に、この爺さんが、わたくしに対してなさることは、殺生ではないと信じておりまする故に、わたくしは安んじて、お爺さんの背中に一切を任せてまいりました。そう致しますると、かなりの時間の後に、この品右衛門爺さんが、ある所までわたくしを連れてまいりまして、そのあるところで、お手やわらかに、わたくしを背中から卸して下さいまして、そうして温かい炉辺の熊の皮の上に坐らせて下さいました。わたくしはそのして下さる通りになっておりましたが、そこはこの白骨ではございません、最初は猟師さんの住居《すまい》かと思いましたら、そうでもございませんでした。猟師さんのほかに、わたくしを労《いたわ》って下さる方があることを知って、これはその方のお住居だなとさとりました。そのお方は、やはり温かい心と、物とを以て、わたくしをいたわり下さる上に、温かいお粥《かゆ》を煮て、疲労した身に、過分にならないほどに心づかいをして、その温かいお粥を、わたくしに食べさせて下さい
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