槍の権三《ごんざ》は美《よ》い男
どうでも権三は美い男
[#ここで字下げ終わり]
お倉婆あが年に似合わない美声をあげる。
[#ここから2字下げ]
しんしんとろりと美い男
[#ここで字下げ終わり]
踊り子は踊りながら手招きをする。
九十二
それから主膳は、夢だか、うつつだか見当のわからない境へ誘い込まれて、そこらで再度の眠り慾が勃発して、いい心持で、むやみに眠ってしまいました。今度こそは、束《つか》の間《ま》のうたた寝を揺り動かされる心配はなく、思うように眠りを貪《むさぼ》ることができるのを喜んで、眠りこくっている。
ほとんど、どのくらいのあいだ眠ったものか、自分にも分らないが、醒《さ》めた時は、寝不足と、酔いとは、二つながら、すっかりさめ切ってしまっていました。
だが、時間の方は醒めてはいない。眠りと、酔いとが醒めた時は、たしかに夜中であることに気のついたのは、長い思案の後ではなく、寝間の状態もはっきり眼にうつると共に、近くに誰もいないのも、いない奴が悪いのではなく、程よい時間で、お暇乞いをして行ってしまったものであることはハッキリとする。酔っていない
前へ
次へ
全323ページ中293ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング