膳は、うっとりして、眼をすましたその途端に、三味線と、太鼓と、拍子木が入る。踊りも古風でよくわからないが、耳をすましてみると、
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槍師槍師《やりしやりし》は多けれど
名古屋山三《なごやさんざ》は一の槍
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というような、古謡がはさまれている。
「殿様、お気に召しましたか」
これはしたり、自分の席の後ろには、お倉婆あが、かいどり姿ですまし返って坐っている。
「うむ」
「お気に召しましたら、お手拍子をあそばしませ」
お倉婆あも、手拍子を打つから、主膳もそれにつれて、
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槍師槍師は多けれど
名古屋山三は一の槍
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とうたいながら、主膳も思わず手拍子を打つと、美少年は喜んで踊りながら、
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トコトンヤレ
トコヤレナ
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という。お倉婆あが、
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女かと見れば男の万之助
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とうたうと、俳優が、
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ウントコトッチャア
ヤットコナア
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と合わせて槍を振る。
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