ろで、おれたちの仲間の不良共が、十余人連合して、その別嬪《べっぴん》の女角力、おくらというのに注文をつけたのだ。その注文というのは……つまり、そのおくらに『娘一人に聟《むこ》八人』をやらせろということなのだ。『娘一人に聟八人』――それはお前も知っているだろう。知らない? 知らなければ話して聞かせる……」
と言って、神尾主膳は「娘一人に聟八人」の故事を話し出す前に、盃を取って、おせいの眼の前に置くと、おせいは無条件になみなみとついでやる。その無条件になみなみと注ぐ手つきを見て、神尾が勝ち誇ったような面《かお》をしてニタリとする。当然、この女は監視役と取押え方心得も忘れてしまって、神尾主膳がおもしろい話をしてくれさえすれば、いくらでも酒を注いでくれることにまで軟化しきっていることを認めたから、そこで主膳がニタリとする。さて一盃傾けて話し出したのは――
自分は仲間に加わらなかったが――と特に念を押しておいて――自分たちの友達の不良が、十名連合して、女角力の美人のおくらを目あてに「娘一人に聟八人」のお好みをつけたというのは、要するに、そのおくらという女角力の裸体だけでは物足りない、どこからど
前へ
次へ
全323ページ中284ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング