こまで見てやりたいという悪辣《あくらつ》な好奇心から、興行主の座元へいくらか掴《つか》ませ――二両やったとかいう話だ――世話人二人にいくらか鼻薬をやって渡りをつけたところが、その世話人という奴の中に、一人、かねがねこのおくらを口説《くど》いていた奴があったが、おくらがうんと言わないものだから、それを遺恨に思っていたところへ、この話だったものだから、こいつが真先に呑込んで、それからおくらにいやおうなしに「娘一人に聟八人」をやらせたものだ。
 つまり、男座頭を八人集めて土俵へのぼせ、それをおくら[#「おくら」に傍点]一人に取組ませるのだ、一方はめくらだからめくらさがしだが、狭い土俵の上で八人の男、十六本の手、足ともでは三十二本でやられるのだから、いくらめくらさがしだってたまらない、ついにおくらがつかまって手取り、足取り……それは見ていられたものじゃない。
 神尾がそこまで話すと、大女のおせいも、さすがに眉をくもらせて、
「かわいそうですね」
「そうなると、お前も同情してくるだろう。ところで、そういう時、お前ならどうだい、座頭の八人ぐらい何の苦もなく手玉に取るだろうな」
「そうはゆきますまい
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