座頭との取組みの光景を、話して聞かせようとする。
日本の女としては、恥かしがる裸体を見世物として提供し、それに男性の不具者としての座頭を、なぐさみものとして取組ませ、つまり、この社会の弱者二つを土俵の上にのぼせて、大格闘をさせ、それを見せて金を儲《もう》けようとするものと、それを見て、やんやと喝采《かっさい》する社会的残忍性を思い浮べて、主膳のパックリとあいた額の真中の眼が爛々《らんらん》と輝きはじめました。
「それは面白かったでしょうね」
「うむ」
主膳は、またその浅ましい見世物を、ひとごととして面白く聞こうとする、この大女の馬鹿さ加減を痛快なりとしました。
「ところで、女角力というやつには、あんまりいい女はなかったね、お前ほどの縹緻《きりょう》のやつもなかったよ。そのはずさ、いい女は角力を取らなくても食って行く道がある、どれもこれも、御面相はお話にならなかったが、おれの見たうちに、たった一人、美人と言っていいのがあった。何しろ、おたふく[#「おたふく」に傍点]でも、大道臼でも、竹の台の陳列場のように、裸体《はだか》でありさえすれば人が寄って来る女角力の中へ、美人と名のつけられる
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