のことばかりではなく、主膳はこのごろは何事にも、さっぱり、興味というものが持てないでいる。それは単に金が無いから、軍費が続かないから、それで面白くないというだけではなく、今は金があっても、興味が持てないものがあるのです。
乾ききっていたついこのごろ――逆さに振っても、水も出なかったこのほど――銭さえあれば昔のように我儘《わがまま》にも遊べるし、綺麗に使いこなすことも知っている。銭が物言うことを最もよく知り抜いているだけに、お絹という女から、金が欲しい、金が欲しい、と当てつけられた時は、むらむらとして、押借り強盗でもなんでもいいから、銭の入る方法があれば何でもやる。お絹という女も、銭にさえありつく仕事なら、万引でも、美人局《つつもたせ》でもやりかねない女ではあるが、環境というものが、そうまでは進ましめないでいる鼻先へ、七兵衛という奴が、猫に鰹節を見せびらかすような、キザな真似《まね》をして見せたけれども、結局、かなりまとまった金をとって来て、自分たちに思うように使わせることになった。
使わせるものなら使ってやれ――という気になったが、そこはお絹と違って、事実、銭を目の前へ突き出されて
前へ
次へ
全323ページ中255ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング