が赤くって、眼の玉の碧《あお》い奴にも、美と不美とがあるのか知らん」
「そりゃ、ありますともね、そうして、その異人館の奥さんが別嬪の上に、異人館の主人がまたいい男なんですって」
「毛唐の女に、美人と不美人がある以上は、男にも、やっぱり好い男と、悪い男との区別があるだろう」
「ありますともね。そうして二人とも、大へん仲がよくってお世辞がよく、日本の言葉が少しはわかるんですって。そうして御亭主の方が、ワタクシ奥サン美人アリマス――なんて言うと、奥さんの方が負けずに、ワタクシ旦那異国一番イイ男、なんて、手ばなしでやるもんですから、それが異人だけに愛嬌になって、大へんな人気だそうです」
「毛唐にも、相当に洒落者《しゃれもの》があるのだなあ」
「あなたはそう毛唐毛唐とおっしゃるけれど……あなたばかりではない、日本の人はみんな毛唐毛唐って、人間じゃないように言うけれど、つきあってみると、どうして異人の方が、よっぽど日本人より捌《さば》けていて、物のわかったところもあれば、人情も深いところがあるのですとさ」
「毛唐にも、そんな人間らしい心があるのかなあ」
「大有りですとさ。その証拠には、日本の女でね
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