「うむ、後学のためにひとつ、見て置いてもよかりそうだ」
「ぜひ、そうなさい……では、そのつもりで乗物を言いつけましょう」
「まあ――待ってくんねえ、お腹がすいたから、兵糧をつかってからのこと」
「やりやがる」とか、「待ってくんねえ」とかいうような言葉が、主膳の口から時々ころがり[#「ころがり」に傍点]出すのは、氏《うじ》より育ちのせいでしょう。
七十九
主膳とお絹とは、御飯を食べながら、しきりに異人館の話をしています。
話といっても、主膳は受身で、お絹だけが乗り気になって、珍しいものの数々を、ひとり合点《がてん》の受売り話みたようなものです。
「それからねえ、異人にもずいぶん、別嬪《べっぴん》がいますとさ」
「そうか」
「あなた、異人の別嬪さんを、ごらんになったことがありますか」
「毛唐の女なんて、まだ見たことはない」
「ところがね、その異人館にはね、そこの大将の奥様で、素敵な異人の別嬪さんが来ているんですとさ」
「うむ」
「それに、女中たちも、異人国からなかなかすぐったのを連れて来ているそうですよ」
「毛唐の女にも、別嬪と不別嬪の区別があるのかなあ、髪の毛
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