見透しという遠眼鏡が備えてあるから、それで見ると、支那も、亜米利加《アメリカ》も一目ですとさ」
「話百分にも、千分にも聞いているがいい」
「聞いてばかりいても、つまりませんから、見てやりましょうよ、ちょうど、天神下の中村様から伝手《つて》があって、紹介してやるから、見物に行ってこいと言われました」
「うむ、中村が……見てこいと言ったか」
「ええ、あの方、異人の大将にごく心易《こころやす》い方があるんですって。ですから、あの方に紹介していただけば、間取間取《まどりまどり》もみんな見せてもらえるし、見晴し台へも上れるし、その遠眼鏡も、飽きるまで見せてもらえるんですとさ」
「うむ」
「あなた、いらっしゃらない?」
「うむ」
「わたしは、あなたもお連れ申して行くように言いました、あなたとは言いませんけれども、一人二人お友達をつれて行くかも知れないがよろしうござんすか、と念を押しますと、さしつかえないと言いましたから、ぜひ、一緒にいらっしゃいまし」
「お前のおともをして行くのも、気が利《き》かないなあ」
「そんな気取ったことをおっしゃるな、かえってお微行《しのび》のようで、いいじゃありませんか」
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