その火の色と、喚声とを聞きつけて、この場へ駈けつけるものは、一揆《いっき》の暴徒らしいやからのみでなく、浦の女子供も群がって来ること、爆竹《どんど》の祝いみたようなものです。
こちらの番所では、ただ、静まり返って見ているだけですが、あちらでは、必死になっての示威運動です。
口々に罵り騒ぐのを聞いていると、切支丹だとか、毛唐だとか、太え奴だ、国を取りに来やがった――とか、黒ん坊同様に一人残らず焼き殺せとか、番所も、船も、ブチ壊せとか、口を極めて、物騒千万な威嚇《いかく》を試みているが、威嚇しながらも、自分たちに相当の警戒があって、二の足を踏んでいるようでもあり、ついには、奮激の虚勢も、悪罵の言いぶりも、やや種切れの気味で、その時分に、鎮守《ちんじゅ》の社から下げて来たらしい太鼓が届くと、それを打鳴らし、やがて、この群集がおどり出しました。
それは示威運動だか、お祭り騒ぎだか、わからなくなってしまっているうちに、押立てた高張提灯の一つに、どうしたハズミか、火がついてバッと燃え上ると、それを揉み消そうとして混乱が起ると、それのハズミで何か物争いが起ったようです。
喧々として物争いをは
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