弥次郎兵衛のように竹の大串にさして、突立てたのを、下に薪を積みはじめたところを見ると、この藁人形に火焙《ひあぶ》りの刑を施さんとするものらしい。
その挙動によって察すると、彼等はマドロスを捕えて焼き殺すことに、何か失敗があったその腹癒《はらい》せか、そうでなければ、首尾よくマドロスに私刑を加え終って後、こうして駒井の番所近く、第二の示威として藁人形を焼き立てようとするものらしい。
二人で、じっと見ていると、彼等は皆相当に昂奮しきっているようです。その昂奮に油をそそぐように、立廻っているのは、幾多のバクチ打と、ならず[#「ならず」に傍点]者の類《たぐい》と見える。
やがて、藁人形の下に積み重ねた薪に火をつけると、火は勢いよく燃え上る。それと同時に、ドッと喚声が湧き上りました。
この騒ぎでは多分、駒井甚三郎も目をさましたでしょう。兵部の娘のベッドの枕も、動かされたに相違ない。
こちらの番所の中の人は、挙げてみんな、窓越しに、じっとこれを眺めているに相違ない。そこが、群集のつけめで、第一の藁人形にこうして火をつけると、第二の藁人形に火をつけて置いて、以前にも増した喚声を上げる。
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