じめたのは、仲間同士でした。
それは、なんの原因だか分らないが、ホンの足を踏んだとか、踏まれたとか、手がさわったとか、さわらなかったとかいういきはりなんでしょう。やがて、すさまじい仲間同士の物争いになったのです。
そこで取組み合いがはじまる、仲裁が出る、というおきまりで、こちらへ対するの示威はフッ飛んでしまい、仲間喧嘩に花が咲いて、その騒々しさ言うべくもない。
こちらの番所で見ている者は、ここに至ると笑止千万《しょうしせんばん》に堪えられないでしょう。
無論、駒井甚三郎も研究室のカーテンを掲げて、最初からこの形勢を見ていましたが、今し、仲間喧嘩が酣《たけな》わになったのを見て、カーテンを下ろしてしまい、またキャンドルを消してしまいました。
九
しばらくすると、扉をハタハタと叩くものがありますから、駒井が、
「お入りなさい」
と言いました。
「御免下さいまし」
と、いんぎんに現われたのは七兵衛です。
七兵衛は、主人のほかに客用のものがある椅子へは、すすめても腰を下ろさないで、敷物の上へかしこまるのを例とします。ただ、手に一本の矢を持っていることが、いつも
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