踏みをすることだけを禁じて、出鱈目の歌には干渉をやめました。
 今や、茂太郎は、星を一層深く見ることを覚え、そうして眺めた星の一つ一つを点画《てんかく》として、自分としての空想を描き出すことで、毎夜の尽くることなき楽しみを覚えました。
 つまり、今まで、禽獣虫魚を友としていたと同じ心で、日月星辰を友とする気になってしまいました。おのおのの星が、これでみんな異った色と光を持ち、異った大きさと距離をもって、おのおの個性的にかがやきつつ、それをながめている自分を招いていることを見ると、嬉しくてたまりません。
 彼は星を見るのでなく、星と遊ぶ心です。
 従って、星の中の一つ、月というものを見る見方も全く変りました。今までは、月というものは、星の中の最も大きなものと見ていたのが、今は、星の中の、いちばん近いものだと見るようになりました。
 手をさし延べれば届くのが、あの月だ。星の中で、いちばん近いから、いちばん大きく見えるので、いちばん大きいから、それで星の王というわけではない。
 悪獣毒蛇でも、馴染《なじ》めばなじめるのだから、日月星辰にも、近寄ろうとすれば近寄れない限りはないと想いつつありま
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