、それを見かけに、何かねだり[#「ねだり」に傍点]事をでも言おうとする横着な奴! しかもそれが女ときては言語道断だ、と思いました。
六十二
おそらく、醜いものの骨頂は、女の酔っぱらいです。
微醺《びくん》を帯びた女のかんばせは、美しさを加えることがあるかも知れないが、こうグデングデンに酔っぱらってしまって、大道中へふんぞり返ってしまったのでは、醜態も醜態の極、問題にならないと、兵馬が苦々しく思いました。
兵馬でなくても、それは苦々しく思いましょう。同時に、こんな苦々しい醜態を、たとえ深夜といえども、この大道中にさらさねばならぬ女、またさらしていられる女は、普通の女ではないということはわかりきっている。つまり、煮ても焼いても食えない莫連者《ばくれんもの》であるか、そうでなければ、その道のいわゆる玄人《くろうと》というやつが盛りつぶされて、茶屋小屋の帰りに、こんな醜態を演じ出したと見るよりほかはないのです。
兵馬が近寄って見ると、それは醜態には醜態に相違ないけれど、醜態の主《ぬし》たるものは、醜人ではありませんでした。むしろ美し過ぎるほど美しい女で、その美しい
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