のをこってりとあでやかにつくっている、それは芸妓《げいしゃ》だ。年も若いし、相当の売れっ妓《こ》になっている芸妓――兵馬は一時《いっとき》、それの姿に眼を奪われて、
「どうかなされたかな」
「やっと、ここまで逃げて来たんです、もう大丈夫」
「どこから?」
「清月楼から」
「清月楼というのは?」
「お前さん、飛騨の高山にいて、清月楼を知らないの?」
「知らない」
「ずいぶんボンクラね」
「うむ」
「ほら、中橋の向うに大きなお料理屋があるでしょう、あれが、清月楼といって、高山では第一等のお料理屋さんなんです」
「そうか」
「そうかじゃありません、高山にいて、清月さんを知らないようなボンクラでは、決して出世はできませんよ」
「うむ――そんなことは、どうでもいいが、お前は清月楼の芸妓なのだな」
「いいえ、清月さんの抱えではありません、これでも新前《しんまえ》の自前《じまえ》なのよ」
「なら、お前の家はどこだ、こんなところに女の身で、醜態を曝《さら》していては、自分も危ないし、家のものも心配するだろう」
「シュウタイって何でしょう、わたし、シュウタイなんていうものを曝しているか知ら、そんなものを
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