街道の道へ出ると、一層の速度を加えて、無二無三に走りました。
そのあとで、
「助けて――」
屑屋もまた、がんりき[#「がんりき」に傍点]と同じようにケシ飛ぼうとしたけれども、それは無理で、ドウと音がして、やがてザンブと水が鳴って、そうして助けて! という声が地の下から聞えたのは、焼跡のそばの、崩れた井戸へ落ち込んだものと見える。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は無情にも、屑屋の急を救わんともせず、救うの遑《いとま》もなく、遮二無二走ること……かれこれ八町余りにして一つの物体にありついて、そこで、息をきりました。
「あっ! 何てザマだ」
そこで、自分ながら愛想が尽き果ててしまったものの如く、額から首筋の汗を拭って、そうして、星もない空を恨めしそうにながめながら、
「ザマあ見やがれ」
幾度も幾度も自分を冷笑しきれないのは、考えてみればみるほどばからしい。
がんどう[#「がんどう」に傍点]を差しつけたまではわかっているが、それからあの辻斬が、果して自分へ向いてのしかかって来たのだか、どうだか、いま考えてみると雲を掴むようだ。
ああした瞬間に、たつみ上《あが》りに覆面の者か
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