とみ》を定めてそれを見る。
さいぜんからそこで我々を見つめていた人影一つ、荒涼たる焼野原を透して、宮川の外《はず》れから白山山脈が見えようというところ、月の晩ではないのに、その輪郭が白くぼかしたように浮き上っている。
「おや……」
がんりき[#「がんりき」に傍点]は、たじろぎながらその物影を篤《とく》と見直すと、覆面をして、着流しのままで、二本の刀を帯びて、じっとこちらを睨《にら》んでいる。
こいつは辻斬だ! はあて、飛騨の高山でも、辻斬が商売になるのかな。
ちょうど、下に置いてあった屑屋のがんどう[#「がんどう」に傍点]提灯《ぢょうちん》を、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が手にとって、その異形《いぎょう》の者にさしつける途端、
「あっ! いけねえ」
すさまじい音をして、がんどう[#「がんどう」に傍点]提灯が、数十間の彼方にケシ飛ぶと共に、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百も共に、数十間ケシ飛びました。
同じケシ飛んだのではあるけれども、がんどう[#「がんどう」に傍点]の方は飛んだところへ行って留まったが、がんりき[#「がんりき」に傍点]の方は横っ飛びに飛んだまま、
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