》かない。といって、これからわっしの行くところはドコです、とたずねるのも一層気が利かない。第一、それをたずねようにも、たずねる人はあたりになし、ようし、一番、この屑屋をからかってやれ、相手にとっては少々不足だが、時にとっての慰みだ、一番からかってやれ――かくてがんりき[#「がんりき」に傍点]はやや暫くあとをつけていたが、頃を見計らって、小声で、
「お爺《とっ》さん」
 紙屑屋の肩を後ろから叩くと、屑屋は一たまりもなくへたへたとひっくり返ってしまいました。

         五十五

「お爺さん」
と肩を叩いたら、直ぐにへたへたとひっくり返ってしまい、もう腰が抜けてしまって動けないらしいから、がんりき[#「がんりき」に傍点]は苦笑いをしながら、屑屋の耳に口を当て、
「お爺さん、驚いちゃいけねえよ、わしは怖《こわ》いもんじゃねえ、道中筋をちっとばかり寄り道があって、たった今、この飛騨の高山というところへたずねて来て見るてえと、高山は一昨日《おととい》こんな大火事で、たずねて来た人の立退先がわからねえんだ、それで途方に暮れているところへ、お前の姿を見たもんだから、呼びかけてみただけのものな
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