しまいました。
 こいつは生え抜きの紙屑買いだ。紙屑買いというよりは、紙屑拾いの部に属すべきもので、がんりき[#「がんりき」に傍点]ほどの者が、あとをつけたりなんぞするほどの代物《しろもの》ではない――何だって気が利《き》かねえ、飛騨の高山まで来て、紙屑買いの尻を追い廻すなんぞは、七兵衛兄いの前《めえ》へてえ[#「てえ」に傍点]しても話にならねえ――というのは、こいつが焼跡へ忍んで行くから、その通りついて行って見ると、その焼跡を鉄の棒でほじくって、そこで金目になりそうなものは、雪駄《せった》の後金《あとがね》であろうとも、鎌の前金であろうとも、拾い集めて銭にかえようとする商売だけのものです。
 夜陰忍んで来たのは、万一この焼跡から、小判の一枚か、金の指輪の一つも掘っくり[#「掘っくり」に傍点]返した時の用意。その時に権利者に出て来られたり、縄張り争いが起ったりしては厄介と思うから、そこで、夜陰こっそり忍んで来ただけのものです。第一、紙屑買いとしての御膳籠の背負いっぷりからして、最初から板についている。
 大笑いだ――だが、ここまで来た上は、また柳の木の下へ引返すのも、なおさら気が利《き
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