から、我々には好意を持っていてくれたものが、急にこんなになったのは、お嬢さんの言う通り、黒幕という奴がさせるのだろう。
黒幕が悪いのだ。
と、茂太郎はようやく黒幕へ持っていって、責任の帰するところを求めようとしました。
そんなら黒幕を外《はず》してしまいさえすれば、いいじゃないか。
六
黒幕を外してしまえ。
それは田山先生がいいだろう、田山先生は強いから、きっとその幕を外せるだろう。黒幕というのは一体、どこにどう張ってあるか知れないが、さがせばわかるに違いない。
それはそれとして、今眼前、焼き殺されようとするマドロス君がかわいそうだ――
茂太郎は、今になって、全くマドロスに同情してしまいました。立ちのぼる紅《くれない》の炎に、無限の恨みを寄せています。
その時に、左の一方は海ですから、絶えずザブリザブリと、寄せては返す仇波《あだなみ》が、月の色を砕いて、おきまりの金波銀波を漂わせつつ、極めて長閑《のどか》に打たせていたのですが、陸なる紅の炎を見ることに、心の全部を吸い取られた茂太郎は、今し、全く閑却していたその海の方を、あわただしく向き直りました。
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