ている。この人は、あんまりエライ人ではない、ドコの国にもある、あたりまえの労働者だ。酒を呑みたがるのも無理はないし、飲めばむやみに女が好きになるところなんぞも、毛唐だから特別という廉《かど》はない。日本人だって大抵そんなものではないか。
毛唐は日本の国を取りに来た者だとは言うけれど、マドロス君一人では、日本の国が取れやしない、よし取ってみたって、一人じゃ背負《しょ》い切れまい。
毛唐だからとて憎まねばならぬという理窟は、どうも茂太郎にはわからない。
それならば、毛唐のうちのメリケン人は、黒人と見れば取捕《とっつか》まえて焼き殺すから、おれたちもメリケンを取捕まえて焼くのだ、というのも理窟にはならない。
いったい、人間同士というものは、そんなに憎み合わないでもいいじゃないの。そんなにおたがいにこわがらないでもいいじゃないか。人間はどうも物を怖がり過ぎていけない。獣や、虫なんぞでも、こちらが害心さえ無ければ、向うも大抵お友達気取りで来るものを、人間が彼等を怖れ過ぎるから、彼等もまた人間を怖れ過ぎる。
本来、この辺の浦人《うらびと》なんぞは、そんな惨酷なことをする人間ではなく、最初
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