ていたのが、あの燃え出した火と、それから煙が、お雪ちゃんの頭を、つむじ[#「つむじ」に傍点]のように旋回させてしまいました。
ああ、ああして石を置いて、せめて、犬や狼の凌辱《りょうじょく》から救って置きたい――イヤなおばさんの最後の肉体に対しての、自分の為し得た好意と親切の全力が、あれだけのものであった、あれより以上には、何をしてあげる力も無かったのだ。混乱の頭と、おのずから血走るような眼で、それを見詰めていたお雪ちゃんは、結局、あの地点はあそこに相違ない、そうして今、火をあんなに盛んに燃やしはじめたのは、わかりきっている、ほかへ運ぶことをしないで、あのままで薪《たきぎ》を積んで、イヤなおばさんの死体を焼きはじめたのだ。
ごらん! 人が集まって来ている、薪をたくさんに運んで足している、イヤなおばさんはああして焼かれている。白骨で、長いこと水の中へ漬けられていたイヤなおばさんの死体は、今は思う存分の薪を加えられて、焼かれている。
せめて、今度こそは、思いきり焼かれてしまって下さい、おばさん。
水にも、火にも、業《ごう》の尽きなかったおばさんの魂魄《こんぱく》、今度こそは、あの鳥辺
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