不愉快で、その時ばかり、遮二無二《しゃにむに》、おばさんを引っぱって、そのだらしのない恰好をやめさせようとしましたが、その途端のこと、イヤな色眼をつかって、ニヤニヤしていたおばさんの首のところから、一つの手が現われて、それがグッとおばさんの面《かお》から首を、後ろから捲いているのを見ました。
まあ、先生も先生――あんなイヤな真似《まね》を……とお雪ちゃんが、いよいよたまらない浅ましさで、見ていられない気になると、その後ろから廻った手が、じんわりとおばさんの首を締めてゆくのに気がつきました。
ニヤニヤと笑っていたおばさんの顔の相が変る――と思うと、そこが青い沼で、その底知れない沼へ、今のおばさんがまっさかさまに沈んで行くのを見て、お雪ちゃんが、あっ! と言いました。
四十六
事実を人に語らないくらいですから、夢を語ろうはずがありません。お雪ちゃんは一切に目をつぶり、口をつぐんで、その夜を明かしましたが、目がさめてみると、なんとはなしに上野原の自分の家へ帰ったような気がしてなりません。
どのみち、お寺のことですから、構造に共通したもののあるのはあたりまえで、特
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