浪人たち。ついこの間は、不意に白骨の温泉へやって来て、宿にわだかまり、あの前の方へ進んで行く大きい方の人が、わたしの眼を後ろから押えて、どうしても放してくれなかった気味の悪い人。そのくせ、巌のように節くれ立った手が、氷のように冷たかったのを覚えている、あの人たちに相違ない。
その名は仏頂寺弥助と、もう一人は丸山勇仙。肩で風を切って堤を歩いて行くが、こちらから見ると、足許《あしもと》がフラフラして、まるで足が無くって歩いているようです。
四十五
お雪ちゃんは、やっと船の中へ転がり込んで、もう起き上ることができません。
頭が火のようで、眼が車のように廻るのです。それをじっと抑えて、何も言わずに、ただ伏しまろんでしまいました。
現在、そこにいる竜之助に向って、思うさまこの怖ろしい見聞を、ブチまけてみようと意気込んだのも、ここで、その勇気すらなくなってしまいました。
見るべからざるものを、二度まで見たのです。平湯峠の上で、戸板の覆いが外《はず》れた時に見たのは確かに、あのおばさんなら、たった今、ここで見た棺の中の死人も、別の人であろうはずがない。
あの時、叫ぼ
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