焼け出されの、西も東ももうげんじ[#「もうげんじ」に傍点]ている際の久助さんをつかまえて、あんな手厳しい尋ね方をする方が間違っている。けれども、久助さんも久助さんだ、知らない、知らないとばかり言わず、もう少しテキパキした返事の仕様もありそうなものと、少し息が静まるにつれて、お雪ちゃんは久助さんの返答ぶりを歯痒《はがゆ》いものに思いました。
こちらに聞いているお雪ちゃんが歯痒く思うくらいだから、尋ねている先方の横柄な旅人は、もっと業《ごう》が煮えたらしく、
「何を聞いても知らぬ、知らぬという。役立たずめが……引込んでおれ。時に丸山氏、いずれこの宮川べりを伝うて行けば、出るところへ出るだろう、出たとこ勝負としようかなあ」
「それもよろしかろう」
こう言って、土手をさっさと歩み去ってしまう旅人は、たしか二人連れのようです。
お雪ちゃんは、見るともなしに、背伸びをして見たら、今、船の蔭を外《はず》れて、土手の上をあちらに向って歩み去る二人の旅人。
それには、たしかに見覚えがあります。
いのじ[#「いのじ」に傍点]ヶ原で、わたしたちの一行にからみついて、あの、すさまじい光景を捲き起した
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