らずお雪ちゃんを導いて、中洲を越えたり、水たまりを飛んだりして、川原の中へと深入りをしてしまいました。
深入りをしてしまったといったところが、本来、川幅の知れた宮川の川原のことですから、深山大沢に迷いいったのとは違い、深く進んだと思うのが、実は行きつ戻りつしていることに過ぎない。
そうして、蘆葦茅草《ろいぼうそう》が枯れ枯れに叢《くさむら》をなしているところ、それが全く断《き》れて石ころの堆《うずたか》いところ、その間を、茸狩《きのこがり》か、潮干狩でもするような気分で、うかうかと屈伸しながら歩んで行くと、当然、到着すべき一つの地点に達して、そこで初めてお雪ちゃんが、あまりのことにまた驚愕狼狽《きょうがくろうばい》しなければならぬことになりました。
その、ある地点……それは、お雪ちゃんが今まで全く忘れていたところのものでありました。前の晩に、この川原をあてどもなく歩いて、そうしてこの蘆葦茅草の中に、ふと白い長い箱のようなものを見出して不審がり、近づいて見ると、それが不吉にも、人間のぬけ殻を蔵《しも》うた棺であることを知り、とてもいやな思いをして、あわてて逃げて帰ったことのあるその
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