んでじゃなく、わたしたちを懐かしがってあとをつけるのなら、この着物も、全くかわいそうな因縁だと思いますワ、そんなにいやがることはありませんねえ」
「そんなら、その着物はお雪ちゃんへの授かり物だから、遠慮なく身につけているのが、かえって回向《えこう》というものかも知れないぜ」
「それでも、わたしは、これを身につけている気にはなれません、見ると、あの時のことが思い出されて、おばさんがかわいそうでなりませんもの」
「したいざんまいをして死んだのだから、かわいそうなこともあるまい」
「なんにしてもいい、わたしはこの着物を焼いてしまって、おばさんの思いが残らないように――お経をあげてあげましょう」
四十二
お雪ちゃんは、その着物を抱えて外へ出ましたが、土手下の枯芒《かれすすき》の、こんもりした中へ、その着物を置くと、自分はひとりふらふらと川原の方へ出てしまって、川原の中を屈んだり、伸びたりして、さまよいながら、胸にだんだん嵩《かさ》の増してゆくのは、燃料となるべき薪《たきぎ》を集めて歩いているのに違いありません。
薪を集めつつ、河原を進みゆくうちに、採集の興味が知らず知
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