表ではみんな追従《ついしょう》して、あのおばさんを座持に立ててしまって、あのおばさんの命令が、夏中の白骨の温泉いっぱいに行われたじゃありませんか。ただイヤなおばさんだけなら、たとえ表面のお追従にしろ、人があんなに従うはずがありません。やっぱりあのおばさんはあれで、あの人だけの人徳を持っていたのじゃないか知ら」
「そうか知らん」
「わたしに向っても、ずいぶん親切でした。イヤなおばさんだから、そのつもりでいなくちゃいけないと思いながら、わたしは、ついついあのおばさんの親切にほだされてしまっていたんですね」
「結局、お雪ちゃんのためには、イヤなおばさんではなく、好きなおばさんだったのか」
「好き……好きとは言えませんけれど、イヤがる理由がなくなってしまいます」
「では、やっぱり好きなおばさんなのだ。その好きなおばさんであればこそ、白骨からこっちへ来る間、お雪ちゃんについて廻り、昨夜も、お雪ちゃんが寒かろうと心配して、わざわざその約束の着物を持って来てくれたものかもしれない」
「ずいぶん気味が悪いけれども、そう取れば取れないことはありませんのね。あのおばさんの魂魄《こんぱく》が、わたしたちを恨
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