今まで、やっぱりイヤなおばさんで通して来て、その噂《うわさ》を持ち出されてさえ、逃げたではないか」
「皆さんが、イヤなおばさん、イヤなおばさんというから、それでわたしもイヤなおばさんにしてしまったのではないか知ら。いったい、あのおばさんのどこが、イヤなおばさんなのでしょう」
「うむ――どこといって聞かれては、わしにもわからないがね、いい年をして、若い男を可愛がるなんぞは、ずいぶん、イヤなおばさんの方じゃないか」
「浅吉さんのことですね……ですけれどもね、年上の女の人が、若い男を可愛がるのはいけないことか知ら。いいえ、それはいいことじゃないにきまっていますが、浅吉さんの方にもイケないところがあると思うわ」
「どっちにしても、いい年をした亭主持ち――ではない、後家さんが、若いのをつれて温泉に入りびたって、ふざけきっていることは、人の目にいい感じを与えはしまい」
「それはそうですけれど……世間に類のないことじゃなし、体裁のいいことじゃありませんけれど、殺してやるほど憎いことじゃありませんね」
「そうか知ら」
「ですから、不思議なのね、蔭ではみんなイヤなおばさん、イヤなおばさん、と言いながら、
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