ていたとはいえ、どうも自分は暢気《のんき》な性質に生れ過ぎているのかも知れないと考え、あわただしく起き直って見たけれど、船の外にも久助さんの姿は見えません。
わたしに気のつかないように、もう出かけてしまったのだ。出かけるといったところで、どこへ行きようがあるものですか、さしあたっての今日の活計のために、あのお救い米だとか、施行小屋《せぎょうごや》だとかいうところへ行ったのでしょう――全くそれは久助さんのことだけではない、自分の眼の前の朝の生命の糧が差迫っている場合、お雪ちゃんは、寝過ごしたことを恥かしくも思い、これから生活のために真剣にならねばならぬと、身をハネ起してみました。
起きてみたけれども、洗うが如くというよりは、本来、洗われてしまっている着のみ着のままの我、どうにもこうにも仕様がないその圧迫に打たれてしまいます。
でも、こうしてはいられない。その圧迫をハネ返しでもするように、お雪ちゃんが起き上った途端に、自分の膝の下に落ちた着物が、あんまり重過ぎることに、気を取られずにはおりません。
「おや」
いつのまに、誰がこんな着物を持って来て、わたしに着せてくれたのかしら。昨夜
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