》ようのものをブラ下げて帰って来ての話に、こんなことがありました、
「お雪ちゃん、わたしは今日、お救い小屋で、妙な人に出会いましたよ」
妙な人だの、変な人だの、イヤなおばさんだの、だしぬけに引き出される名前が、お雪ちゃんの胸にいい印象を与えませんでした。
「誰に?」
「あのね、そら、いつぞや、上野原へ、若衆のおさむらいさんが来たでしょう。お雪ちゃんが井戸で水を汲んでいなさるところへ、疲れて来て、水を一ぱい下さいと言ったのが縁で、それから、あなたがお宅へ泊めておやりなさることになると、ホラその晩、あの強盗でございましょう、方丈様も、お前様も、残らず強盗に縛られておしまいなすったのを、ちょうど、泊り合わせなすったあの若いおさむらいさんが、すっかり退治をして下さったあの晩のこと、そうしてその強盗を追い散らし、皆さんを無事に助けて下さったけれど、あの泥棒共が、翌日火の見櫓の下で、狼に食い殺されていましたっけ……ほら、あの時の、あの若いおさむらいさんに違いないと思いました。あの方にお目にかかりましたよ」
「まあ、それはほんとうに珍しい、またよい人にお目にかかりました。先方様《さきさま》は何とお
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