めに、あとを濁して来たというわけではないから、申しわけをしさえすれば、話はわかってもらえる。
あの冬籠《ふゆごも》りの人たちは、いずれも一風変った人たちではあったけれども、なかでも北原さんがいちばん気軽で、わたしとは気が合っていた。口は悪いけれども、全く親切気のあった人。
あの北原さんに便りをしてみようかしら……近くの他人といえば、あの人よりほかはない。
甲州までは大へんな道のり、白骨はほんの十里内外――久助さんに、面をかぶってひとつ白骨へ行ってもらおう、そうして北原さんに事情を打明ければ、この急場を凌《しの》ぐに最もよい知恵を貸して下さるに相違ない――そうだ、では北原さんに手紙を書きましょう。
お雪ちゃんは、こんな気持になって、明日、お寺へ落着いたなら、真先に北原さんへ手紙を書こうと決心し、それから、
「先生、こんなことなら、あなたを白骨にお置き申した方がようござんしたねえ」
と、所在なさそうな、転寝《うたたね》の竜之助を見て、なぐさめの言葉をかけました。
「こんな世話場も、面白いものだ」
「ほんとうに、思いがけない世話場を出してしまいました、これも、あのイヤなおばさんの祟《
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