安心のなり難いこともある。ぜひ、どうしても久助さんに行ってもらわねば……先日は、かりそめに邪魔にした久助を、今は、一にも二にも恃《たの》む心になったのも勝手なものだが、その恃みきった久助さんとても、仮りに最大速度で走ってくれたところで、往復に二十日はかかるでしょう。
その二十日の間――二十日たって帰るものならいいが、今の時節、途中で、もしものことでもあったらどうしましょう。
この際に、お雪ちゃんが、「遠くの親類より近くの他人」という諺《ことわざ》をしみじみと思い、身に沁《し》みました。
親類でも、実家でも、遠くにあってはなんにもならない。これは、いっそ、近くの他人……他人へすがるよりほかはあるまいけれど、こんなところで、すがるべき他人を見出すことがむずかしい。どうしたものだろう――お雪ちゃんは思案の揚句、ふと胸に浮んだのが、白骨温泉に滞在している人たち、わけて北原さんのことです。
三十三
白骨を出る時は、こっそりと、だしぬけに出て来てしまっているから、皆さんも気を悪くしていらっしゃるだろうが、それには、そうしなければならぬわけがある。でも、なにも皆さんのた
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