ところまで行かねばならないのか――お雪ちゃんは飛騨《ひだ》の高山を怖れました。

         十二

 これに先立つこと幾日、宇津木兵馬は同じ道を、すでに飛騨の高山の町に入って、一の町二丁目の高札場《こうさつば》の前に立っておりました。
 大きな柳の枯枝に、なぶられている立札を見ると、「御廻状|写《うつし》の事」というものがある。本文を読んでみると、
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「近来浪人共、水戸殿浪人或は新徴組|抔《など》と唱へ、所々身元宜者共へ攘夷之儀を口実に無心申懸け、其余公事出入等に、彼是|申威《まうしおど》し金子|為差出《さしださせ》候類|有之候処《これありさふらふところ》、追々増長におよび、猥《みだり》に勅命抔と申触《まうしふら》し在々農民を党類に引入候類も有之哉《これあるや》に相聞き、今般御上洛|被仰出折柄難捨置《おほせいださるるをりからすておきがたく》、依之|已来《いらい》御料私領村々申合せ置き、帯刀いたし居候とも、浪人|体《てい》にて恠敷《あやしく》見受候分は無用捨《ようしやなく》召捕り、手向いたし候はば切殺候とも打殺候とも可致旨被仰出候間、其旨可存候
右之通り万石
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