出した魂魄《こんぱく》を呼び戻そうというのだろう」
「いやな習わしですね」
「うん、気にして聞いていると、自分が地獄から呼び戻されてでもいるようだ」
「でも、よろしうござんした、こちらは首尾よく呼び戻してしまいましたから。ねえ、先生、ここに鎧櫃がございますね、ここへ休まれる前に、あなたに向って、わたしが冗談を言いましたが、先生、あなた、この鎧櫃へお入りなされば、わたしが白川へでも、白山へでも、おぶって行ってあげると言いながら、二人が眠ってしまいましたのね。ところがどうでしょう、あなたが、ちゃあんと、この鎧櫃へはいっていらっしゃるじゃありませんか。それだけならいいけれど、鎧櫃の中のあなたのお姿といったら、いやいや、思い出してもいやですわ、どう見たってこの世の人じゃございませんでしたもの。わたしは一生懸命、あなたの魂を呼び戻そうとして、叫びましたが、呼び戻しているわたしが、かえってあなたのために呼びさまされて、こうして汗をかいているわけじゃありませんか。夢でよかったというには、あんまり気持が悪過ぎる夢でした。でも、こうして醒《さ》めてみると、安心しました」
八
そこ
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