人なのですが――に、悠々閑々《ゆうゆうかんかん》と大八車が進んで行くものですから、あっといって、やや心を強くしました。
やっぱり腰抜けばかりじゃないわ、ああした度胸の据った人もある、車力には惜しい度胸だ、こう思いつつあるお角を乗せた早駕籠が、早くも大八車をすり抜けた途端に、お角は、この悠々閑々たる勇者の面《かお》を見てやりたいと思ってのぞくと、それが見紛うべくもなき宇治山田の米友でしたから、
「おやおや、友さんかエ」
四十五
早駕籠をとめさせたお角が、
「友さんじゃないかエ」
「あっ! 親方」
米友は舌を捲いて、梶棒を控えました。
「友さん、お前、いつ車力になったの」
「ええ、その、ちょっと、都合があるものですから」
「いい御苦労だねえ」
「そういうわけじゃねえんだがね、よんどころなく、つい……」
「そうして、お前、その車を引っぱってどこへ行こうというの」
「名古屋まで行くうちには、車力が追附いて来るだろうと思うんで。そうでなけりゃあ、持主が何とか言うだろう」
「ほんにいい御苦労だよ。それに何だね、ついているのは、穀物に熊の子じゃないの、判じものみたようだ」
前へ
次へ
全163ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング