相撲連は、やがてこの茶屋に流れ込んで来たものですから、茶屋の中は相撲取の洪水で、せっかくの小娘も、信心の説明を中止して、その取持ちに走りました。
かなり広い茶屋は、相撲取でいっぱいになってしまいました。
さりとて、ここに待合わせているはずのお角さんは、今ここを立つわけにはゆきません。また、お角さんとしても、何も相撲取が来たからって、驚くがものはないじゃないか、憚《はばか》りながら、こちら様が先客なんだから、席を譲ってやる引け目なんぞは、ちっともありはしないのだから、泰然自若として、輪を吹いていましたが、何をいうにも小山のような奴等が、あたり近所いっぱいに立て込んでしまったものですから、お角一人はその中に陥没してしまって、形に於て、その存在を認められなくなったのは癪《しゃく》です。
自然、店の者たちも、お角さんの方を一向に閑却してしまったのも、悪意あってではありません。
お角さんとしても、そんなことを気にするような女ではないのですから、相撲の肉屏風《にくびょうぶ》の中に、ほほえみながら、相変らず煙草を輪に吹いてはいたけれども、前後左右に、煙草の煙の出場所さえないくらいですから、さ
前へ
次へ
全163ページ中129ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング