がつきませんでした」
「そうして、御工夫がつきましたの、その発明とやらが成就《じょうじゅ》なさいましたの」
「成就はしませんが、目鼻は明いたようなものです、御覧なさい……」
北原賢次は、薄目になめした皮で、小さな目籠のようなものを仕立てたのを、取り上げてお雪の目の前に出し、
「これなら、この平和の使に持たせてやっても荷にはなりますまい。この程度に薄めて、この裏へ通信の文字を認《したた》めるんです、そうしてこうクルクルと捲いて、鳩の風切羽《かぜきりば》か、足のところへそっと結びつけるのですな、そうすれば、紙と違って、雨に逢っても、まず大丈夫だろうと思うんです」
「可愛らしい文箱ですね」
「お使者が可愛らしいから、文箱もそれに準じてね」
「ですけれども、これでは字を認めるところが、あんまり狭いではありませんか」
「その辺が精一杯ですよ、それより広くした日には、使者に持ちきれません」
「これでは、三十六文字ぐらいしか書けませんのね」
「眼鏡をかけて書けば、百字は書けますよ」
「でも、せっかくのたよりに百字ぐらいでは、何にも、言いたいことが言えないじゃありませんか」
「それはお雪ちゃんのよう
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