「まあ、お話しなさい、それに、この大発明について、あなたのお知恵も拝借したいと思っていたところですから」
「わたしに知恵なんてございませんが、当ててみましょうか」
「当てて御覧なさい」
「この鳩に持たせる軽い文箱《ふばこ》を、その白樺の皮でこしらえようとして、苦心していらっしゃるのでしょう」
「図星《ずぼし》!」
 賢次は、わが意を得たりとばかり喜んで、
「お雪ちゃんの頭のいいことは、今に始まったことじゃないが、全く恐れ入ったものです、それに違いないのです、よくそこまで想像が届きましたね」
「なに、頭のいいこともなにもあるものですか、あなたはこのごろ、しょっちゅう、そうおっしゃってじゃありませんか、この三つの籠《かご》のうち、一つは飛騨《ひだ》の平湯行、一つは信州の松本行、一つは尾張の名古屋行だが、これに持たせてやる文箱《ふばこ》が無い、文箱が無くては、鏡山のお初でさえ困るだろうから、ひとつこの鳩に持たせる文箱を工夫してやりたいなんぞと、口癖のようにおっしゃっていらっしゃったではありませんか」
「そうでしたかね、そんなことを口走りましたかね、あんまりのぼせていたものですから、自分では気
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