のでしょう、下に抜穴があるか、或いは水分がしみ込むように出来ているのかも知れません」
「いいえ、見たところ、異状はありません、それに三階ですから、水の来る心配はないはずです、おおかた、部屋が陰気に出来ているせいなんでしょう」
「陰気――或いはそうかも知れません。陰気といえば、お雪さん、あなたこそ、ちかごろは、めっきり陰気が嵩《こう》じてきました、我々仲間でも、蔭ながら心配しているのは御存じでしょう、以前のような快活になれなければ、せめてもう少し元気におなり下さい」
「有難うございます、自分では、そんなつもりはないのですが、皆さんがそうおっしゃって下さるので、いやになってしまいます」
「あんまり一間にたれこめて、御病人の看病ばかりなさっているからです、たまにはこっちへ出て来て、この剽軽者《ひょうきんもの》の賢次の話相手になって御覧なさい、少しは気も暢《の》びてきますよ」
「それでも、何かと忙しいものですから、つい」
「何が忙しいことがあるものですか、忙しいほどの仕事がおありなさるなら、人にぶっかけておやりなさい、拙者なんぞにも、手伝わせてやって下さって差しつかえはございません」
「どうも
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