白骨へ行く代りに、そちらへ行って済むものならば、そちらへ行きたいと思ったばかりです、深くお気にかけなさいますな」
「お前は、熊本が好きですか」
「御先祖の地だということが、どうも、絶えずわたしを引きつけて、どうしても肥後の熊本が、墳墓の地のように思われてなりません」
「御先祖の地は熊本ではない、この尾張の国が、本当に、御先祖の発祥地だという気にはなれませんか」
「どうも、それが……どうしても、そういう気になれないで、熊本が、ほんとに慕わしい故郷の地……というような気ばかりしてならないのです」
「お前までがそれだから、縁があって、縁の無い土地というものは仕方がありません。ほんとうに、よく覚えておいでなさい、加藤という加藤家は多いけれども、清正公の最も正しい血筋を引いたのは、お前だけですよ、お前が亡くなると、加藤清正公の正しい血筋は絶えてしまうのです。そのお前が……お前に加藤家の血統を絶やさないようにと、わたしがどのくらい苦心をしているか、それをお前にわかってもらわなければなりません。加藤清正は、秀吉公の御親類で、まさしくこの尾張が故郷であるのに、あの名古屋の城の天守も、清正公が一期《いち
前へ 次へ
全514ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング