坐り込んでいるのは、この界隈《かいわい》のお河童や、がっそう[#「がっそう」に傍点]や、総角《あげまき》や、かぶろや、涎《よだれ》くりであって、少々遠慮をして、蓆の周囲に立ちながら相好《そうごう》をくずしているのは皆、それらの秀才と淑女の父兄保護者連なのであります。
 さて席の正面を見ると、そこに臨時の祭壇が設けられてある。その祭壇に使用された祭具を見ると、八脚の新しい斎机《さいき》もあり、経机の塗りの剥《は》げたのもあり、御幣立《ごへいたて》が備えられてあるかと見れば、香炉がくすぶっている。田物《たなつもの》、畑物《はたつもの》を供えた器《うつわ》も、神仏混淆《しんぶつこんこう》のチグハグなもので、あたり近所から、借り集めて人寄せに間に合わせるという気分が、豊かに漂うのであります。
 それよりも大切なことは、祭壇があれば、祭主がなければならないことですが、御安心なさい、烏帽子《えぼし》直垂《ひたたれ》でいちいの笏《しゃく》を手に取り持った祭主殿が、最初から、あちら向きにひとり坐って神妙に控えてござる――さてまた祭主と祭壇の周囲には当然、それに介添《かいぞえ》、その世話人といったような
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