》の郡《こおり》の山また山――雪に蔽《おお》われた番所ヶ原を、たったひとりで踏み越えて白骨谷に行くと広言した弁信法師、ふと或る地点で足を踏みとどめてしまいました。
「おいおい、寒い時は山から小僧が飛んで来るものだぜ、今時分、逆に山入りをする小僧があるものか」
どこからともない、嘲笑罵声を聞き流して耳を傾けた弁信法師――
「おや、私一人ばかりかと思いましたこの道に、うしろからお呼びになったのは、どなたでございます。え? 何とおっしゃる、白骨谷へ行くのは止めに致せとおっしゃいますか。ははあ、それもそうでございますな、私も今となってまた心が変りました、最初のほどは白骨へ、白骨へと引かされる心持になりましたが、今となりますと、どうも白骨谷が空《くう》になったように思われます、私が逢いたいという人、私が尋ねたいという人は、もう白骨谷にはいないように思われてなりません。はてそれではどこへ行ったとおっしゃるのですか。左様、それは私にもわかりません、ただ白骨へ行こうという気が抜けました、白骨にはもう私の尋ねる人はおりません、そこで私も雪の中を艱難辛苦《かんなんしんく》してあれまでまいる必要がないよう
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