しました。
「おや、醒ヶ井様、何をおっしゃいましたか」
「天成の英雄と、美人というものは、百年に一人か二人――しか生れるものじゃありませんから、一年や二年に相場が狂うはずはありませんね、ですから、二と三は皆様の御随意にお選びなさい、一は動かすことはなりませんよ」
「一は動かせないとおっしゃるのですか」
「つまり、名古屋第一等の美人の極めは疾《と》うの昔、五年前に済んでいますからね」
 醒ヶ井の権高い言いがかりと、五年前という言葉が、せっかくの一座の意気込みを、くじいてしまいました。
「それは、どなたでございましたか知ら」
「銀杏加藤《ぎんなんかとう》の奥方が、名古屋第一ということに極めがついていますのよ、五年前――ちょうど、こんな夜さりの品定めで、皆さんの評定がそこに定まって、どなたも異存がありませんでした……」
「でも、それは、五年前のお話じゃありませんか……」
と、初霜というのが少しばかり張り合う。醒ヶ井は決して負けてはいない。
「だから、言うじゃありませんか、第一の位は、そう一年や二年に変るものではないと。わたしから言わせると、やっぱり今日でも、銀杏加藤の奥方につづく二と三はあり
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