出ながら、また立ちもどり、
「お松さん、私の来たことは内証だよ」
と、お松の耳に口を当てて、ささやく。
「え、ようござんすとも、そんなことは少しも御心配なく……」
 お松の呑込みをあとにして、この邸を立ち出でてしまいました。

         六十三

 即日発足した七兵衛、生地より関八州、江戸から上方筋《かみがたすじ》へかけては、めまぐるしいほどの旅をつづけているが、房州路へは全くはじめてです。
 船を嫌って、内房をめぐるべく歩を取った七兵衛――江戸を離れようとする時に、乗込んで来た一隊の兵士と出逢い、直ちにこれが会津の兵だということに気がつきました。
 会津の兵が江戸にとどまるのではなく、このまま京都へ馳《は》せ参ずるのだとさとりました。
 それと、もう一つは北へ向って走る飛脚を一人見ました。飛脚の風をしているが、それは飛脚ではない、士分の者だ、ということを七兵衛が見て取りました。そうしてこれは水戸へ向って急ぐのだ、気のせいか山崎譲の後ろ姿のようにも見える。これらのものに行違うと、七兵衛の足は外房に向って走りながら、心はどうしても京阪に向って飛ばずにはおられぬ。
 その日、千葉の
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