から内海を一走りした方が楽だろう」
「どちらでもかまいません――洲崎に、わたしが只今お預かりしているお子さんのお父様がおいでになるのです、そこへお便りをしていただきとうございます」
「うむ、何という人だね」
「以前は、駒井能登守様といって、甲府の勤番支配をつとめていらっしゃいました」
「え、甲府の勤番支配、そりゃ大物だ」
 七兵衛はここで、ギクリとした思い入れ。
「はい、今は駒井甚三郎様といって、世を忍んで、房州の洲崎にいらっしゃいます、そこへおたよりを願いたいのでございます」
「たしかに頼まれました、これから直ぐに出かけましょう」
「まあ、それはあんまり」
「なあに、房州ぐらい、江戸へ出て見れば鼻の先に山が見えますよ、何でもありゃしません、ほんの一走り、この足で、ここから飛んで行きますよ」
「それでは、これから、わたしが手紙を書きますから、どうぞ少しの間、お待ち下さいまし」
 こう言って、お松は引込んでしまいました。
 七兵衛は、ひとり炉辺で、お茶を飲みながら待っている。
 かなり長い時間――お松はかなり長い文言を書いていると見える。やがて、乳母の手に駒井の一子登を抱かせて、三人で出
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